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千駄ヶ谷インターナショナルクリニック Sendagaya International Clinic

千駄ヶ谷駅から徒歩3分、予約優先の一般内科診療の他に旅行外来(トラベルクリニック)およびバイリンガルスタッフによる受付から会計まで対応した外国人診療を行っているイブニングクリニックです。

【感染症の旅行医学】トラベルワクチンについて

~ トラベルワクチンの基本事項 ~

はじめに
渡航準備のひとつとして、ワクチン接種があります。アジア、アフリカなどへ出かける場合に感染症から身を守るためのトラベルワクチンや、米国などの留学先で求められるトラベルワクチンがあります。
今回は、このトラベルワクチンの基本事項について解説します。

3つの"R"

トラベルワクチンは、その用途によって3つのカテゴリーがあります。

A.Routine(定期接種)
これは、小児期に接種されるべきワクチンで、日本での定期接種の種類も米国などのスタンダードに追いつきつつあります。米国への留学で要求される追加ワク チンは、B型肝炎、ポリオの追加、そして水痘ワクチンなどがありますが、日本国内ではB型肝炎予防接種の導入なども決まり、ギャツプは解消しつつあります。

B.Required(法的必要性のある予防接種)
これは、WHOの規定を基に各国が入国者に接種を求めているワクチンで、黄熱病ワクチンが該当します。このワクチンは、10年ごとに再接種するよう規定されていましたが、2016年からは、「一生有効」となっています。
また、日本人にはあまり関係はありませんが、サウジアラビアでは、メッカへの巡礼のため、髄膜炎ワクチンやポリオワクチンの接種が必要とされるケースもあります。

C.Recommended(推奨ワクチン)
これが本来のトラベルワクチンに該当します。①訪問国②目的③滞在期間や季節④出発日までの期間⑤宿泊先⑥ワクチンの接種歴⑦アレルギー歴⑧かけられる予 算―を総合的に判断して接種されます。この判断の基となるすべての情報は、CDC(Centers for Disease Control and Prevention)アメリカ疾病予防管理センター、WHOのホームページがいちばん信頼のおけるデータベースです。

同時接種と接種間隔

小児と同様にトラベルワクチンも同時接種が、国際スタンダードです。生ワクチン、不活化ワクチンを問わず、同時接種によるワクチンの効果の低下や副反応の増加は報告されていません。
ワクチンの接種間隔は、標準期間を守るのが理想ですが、諸事情でそのルールを守れないケースもあります。その場合は「4日の前倒し接種」そして「遅れての接種」はOKです。
生ワクチンと生ワクチンの接種間隔は28日とされています。これは最初の生ワクチンに対する抗体が2回目のワクチンの抗体産生に干渉しないための期間です。なお、不活化ワクチンの接種期間を1週間空けるというルールは日本だけの規定です。

「生ワクチン」と「不活化ワクチン」

「生ワクチン」は、原則として1回で強い抗体産生が得られます。麻疹ワクチンでは95%の非接種者に十分な抗体産生が得られ、2回目接種で100%となります。
一方、不活化ワクチンは、1回では十分な抗体産生が得られず、2回目以降に予防効果が得られます。「生ワクチン」の欠点は、有効保存期間が短いこと、そしてごく一部ですが、黄熱病ワクチンなどでは発熱が長引くケースがときどき見られることです。

「国産ワクチン」と「輸入ワクチン」

1年ほど前に髄膜炎ワクチンが日本で承認・発売されましたが、チフスワクチンはまだ承認されていません。また、狂犬病ワクチンは暴露後接種用の供給しかなく、輸入ワクチンに頼っているのが現状です。狂犬病は、中国、東南アジア、アフリカでは多くの死亡例があります。
輸入ワクチンは、輸送料や業者による通関手数料が上乗せされ高くなります。一方、この状況を国際的な視点からとらえてみると、トラベルワクチンの問題点が浮かび上がります。
狂犬病ワクチンは、国産のものに加えてラビピュールとベロラボが知られていますが、世界では23種類のワクチンが製造販売されています。その約半数は、インド、中国、ロシア製で、先進国では使用されていません。
Elaine C.Jong先生による名著“TRAVELER’S VACCINES”の中で、日本の国産狂犬病ワクチンについて“It is not generally available outside Japan and appears to be of lower immunogenicity”と指摘しています。したがって、一般的にワクチンの互換性は認められていますが、海外でラビピュールやベロラボを暴露後接 種して帰国した方に、国産ワクチンを接種させることに違和感を覚えます。
日本に滞在している外国人に予防接種を行う場合、多くの方は輸入ワクチンを希望されます。ますます国際化する日本において、この2つの障壁がもっと低くなることが望まれます。

Last-Minute's Traveler

「来週からミャンマーに行きます」「10日後にネパールのNGO活動に参加します」など、突然の予定に、十分な予防接種期日をとれない人もいます。その場合、完壁を期さずとも、2週間での抗体産生を期待して、輸入ワクチンを利用してのラピッドスケジュールが可能です。
A型肝炎では、ハブリックスまたはアバキシムを使用し、チフスワクチンを同時接種します。ケースによっては、David R. Shlim先生による「O-3-7日」のスーパーラピツドスケジュールも可能で、狂犬病ワクチン接種もすることもあります。とはいえ、「予防接種には十分 な期間が必要」という患者教育も必要です。

ワクチンよりも「防蚊対策のPriority」

この夏、ブラジルでオリンピックが開催されますが、ブラジルは黄熱病予防接種を入国条件としている国ではありません。しかし、黄熱病は存在します。前項の ①~⑧を基に、ワクチン接種は判断されるべきです。A.黄熱病に加えて、B.マラリア、C.デング熱、そして2015年から激増している、D.ジカ熱-の 4つの蚊の媒介する感染症が同時存在しています。この4つに対しては、「防蚊対策」が有効で、具体的には①エアコン設備のあるホテルへの宿泊(そうでない 場合は蚊帳の使用)②DEET(昆虫などの虫よけ剤)の使用③ペルメトリン衣類の着用1の3点が挙げられます。①は、多くの日本旅行者にとって問題ないで しょう。②に関しては、日本ではDEET30%以上の製品はありません。現地で調達することになります。③に関しては、株式会社インセクトシールドジャパ ンが発売しているメッシュのパーカーなどが手に入ります(写真)。

InsectShield01

虫よけメッシュパーカー

この②と③を同時使用した防蚊効果は、アラスカでのフィールドスタディでは99・9%です。

おわりに

感染症から身を守るトラベルワクチン事情も国際スタンダードに近づきつつあります。一方、ワクチン接種だけにとらわれず、広い視野からの科学的な感染症対策をアドバイスすることも旅行医学の大切な役割です。